危ない!住まいの階段(その1)「家づくりに潜むクレームとトラブル」
皆さん、こんにちは!
遊建築設計社の松浦です。
今日は、家づくりを進める中で起こる「クレームとトラブル」についてお話しさせていただきます。
私たち遊建築設計社では、お施主さんとの間で問題にならないように、様々な事例を挙げて対処方法や根拠をまとめた「YU-GRAM」という家づくりのルールを定めています。
そのルールを基に、ヒアリングをさせて頂き、プランニングに活かし、そしてプレゼンテーションを行っています。
これからお話しする内容は、ルールブックに記載されていることであり、私たち設計事務所が常に実践していることです。
家づくりをする方に必ず役に立つことですので、最後までお読みください。
第9回 危ない!住まいの階段(その1)
住宅で安全性と言えば、耐震性に代表される「構造の強度」や、健康被害をもたらすシックハウス症候群の原因となる「室内空気の汚染」を想像される方が多いかと思います。
確かに、構造や健康の安全性を確保することは、法令遵守の観点から誰もが守らなければならないことです。しかし、家づくりにおいては、法律(建築基準法など)で表記しきれないことが少なからずあります。
その一つが、間取りづくりにおいて要となる「階段室」です。
階段室の位置や階段の型式(形状のタイプ)は、プランの良し悪しを左右すると言っても過言ではありません。いわゆる、生活のしやすさは「階段」で決まるのです。それが故に、プランニングでは、上下階をよどみなく繋ぐ階段計画に苦労させられます。
試行錯誤の上やっとの思いで解決してみたら、「とても危険な階段をつくってしまっていた!」ということもあるのではないでしょうか。プランニングにおける階段は、様々なことを同時に考えて解決しなければならないとても難しい計画です。
本日は、一歩間違ってしまうと「クレームやトラブル」どころか、命にかかわることが発生してしまう「危険な階段」とは何か?
それを回避する「安全な階段」につくりかえる方法についてお話しいたします。
危険な階段とは?
お住まいになってから、「おっ―と、危ない!」
時には、「ダダ、ダッ、ダーン・・・、痛たたたぁ~!」
「うっかりして、滑ってしまいました!」
なんてことをお聞きになったことがありませんか?
お施主さんは、必ずと言ってよいほど階段で危険を感じたり、実際に滑り落ちたりされることがあります。それは、単に住まいの中で上り下りの経験が少なかったというだけでなく、私たちプランニングする側に階段が「危機な場所」という認識が不足して起きているのかも知れません。
では、階段のどの部分が住まう方にとって「危険」となるのでしょうか。
三つ割りの階段スペースが危険!
それは、まわり階段などにある図1のような半畳の広さを三つ割りした部分が危険となります。
(図1)
一般的に、一つの住戸内にある階段は、危険を防止するために蹴上寸法(1段の高さ)や段板の踏面寸法(足で踏む板の奥行)を同じにします。
しかし、まわり階段にあるような図1のスペースでは、三つ割りの中心部分に近づくにつれて、踏面の奥行寸法が少なくなっていきます。
そこが、危険なのです!
皆さんご自身もこんなご経験がありませんか。
まわり階段で、2階からの下りはじめと同じ感覚で踏面の奥行があると思い込んでいたら、曲がるときに足を乗せる部分が狭くなって、あっという間に2~3段踏み外してしまった。実は、この様なことが日々の生活の中でよく起きていることなのです。
滑り落ちたのは、移動する方向を意識して、無意識のうちに体の向きを変えてしまったがゆえに起きてしまったことが原因でしょうか。それとも、そもそも階段の計画が悪かったのでしょうか。少なくても、私たち設計屋は、細心の注意を払って階段を計画しなければなりません。
「割り付けの中心側ではなくて、外側を下りていたら滑らなかったのに・・・、」
そうなのです、とても良いご指摘です。
階段計画の中で、「安全な階段」をつくる方法は、2つです。
一つは、階段の「手摺り(てすり)を取り付け位置」にあります。
建築基準法では、危険を防止するために身体を支える手摺りが必要とだけ書かれています。その法律に従って、「階段に手すりを設けました」ではなく、安全性を確保するためにもっと細かな取り付け位置を示す図面(社内ルール)が必要です。
例えば、まわり階段では、図2の様に「手摺りの位置は、外側に設けること!」と決めてください。更に、中心側の危険な部分に身体を誘導するのではなく、安心して下りられる踏面の大きい方に自然と体を寄せさせるように配慮しなければならない。とコメントを追記することも良いです。
それでも、ついうっかりして踏み外すこともあります。
(図2)
二つ目は、階段には必ず「踊り場」をつくることです。
万が一、まわり階段の三つ割り部分から滑って落ちても、身体を受け止めてくれる踊り場があったなら如何でしょうか。
2~3段の踏み外しならば、落下して受け止めてくれる踊り場までの高さは、蹴上寸法が仮に200mmとするならば400mm~600mmです。この高さなら、お尻にアザができるか、足首の捻挫、悪くて骨折でしょうか。
ところが、もし踊り場がなかったらどうなりますでしょうか?
木造住宅の階高(1階から2階までの高さ)が概ね3メートルありますので、図1の階段の3つ割り部分から滑り落ちたならば階高の半分の高さ、即ち一瞬で1.5メートル下へ転がりながら落ちてしまうことになります。足首の捻挫どころか骨折する、あるいは最悪の場合、打ち所が悪くて死に至るかも知れません。
床面積にゆとりがないと言わずに、「命にかかわること」です。
これからの住まいづくりにおいては、「安全な階段をつくる」という社内ルールを設け、社内の誰でもが理解し実行できるという標準化を図るべきかと思います。
次回の「危ない、住まいの階段」は、「階段の型式(形状のタイプ)」と題して、間取りに取り込んで使ってはいけない「危険な階段」と、おススメの「安全な階段」についてお話しいたします。
皆さん、次回もご期待ください!
- 一級建築士 / 遊建築設計社 代表松浦 喜則
平成4年、遊建築設計社を設立。「住まいの文化座」を主宰し住宅会社の設計や、 営業マンに提案ノウハウを伝授。合理的で、簡単なプラン提案の手法は好評。年間500棟のプランニング実績から生まれた、接客用ツールを開発。