2021年5月11日

考察。「これからの人気間取り」

皆さん、こんにちは!遊建築設計社の松浦です。
本日は、前回の記事の中でお約束しましたように、一人の住宅設計屋として、これから志向される「住まいの間取り」を予想したいと思います。

家づくりは、社会・経済の影響を受けながら徐々に変化していきます。
建物の性能で言えば、数年前に国の施策により新たな一歩を踏み出しました。それは、構造・断熱・換気や火災時の安全性、更にはメンテナンスのしやすさなどの目安が確立され、調査と書面でもって確認されるようになったのです。これによって、建てられる住宅の性能が評価表示され、建物の性能という価値が家づくりに加わっていくことになります。

一方で、暮らし方を表す間取りは、そこに住まう人(家族)の価値観によって変わっていきます。近年は、様々な要因で多様な価値が生まれ、その変化するスピードも従前とは比べものにならないくらいに早くなっております。
わずか数年前と比較しても、間取りには新たに追加されたり、縮小や省かれたりしたスペースが多いと感じています。長い歴史の中でみますと、今はとても激しい入れ替わりが起きていると言えます。

本日は、このようなことを踏まえながら「これから人気となる住まい」をご案内したいと思います。

住まいは、コンパクトで広く!

現在の家づくりを一言でいうのなら、それは「間取りは、コンパクトにまとめる」という考え方です。

ただし、私が申しあげている「コンパクト」とは、一部を切り捨て単に“小さくこじんまりしている”という意味ではなく、生活に必要な最低限のスペースを取り込んだ“中身が充実した”間取りのことです。

生活を充実させるための例としては、共働き夫婦が増えたこともあって室内干しスペースが求められたり、コロナ禍によって在宅ワークが始まり、その結果自宅の中での事務作業スペースが求められたりする様になりました。室内での物干しは、サンルームや少し広めにした洗面脱衣室を使い、事務作業は、リビングの中にあったスタディコーナーやキッチンのそばにあったミセスコーナーを少し充実させて使うことが多くなりました。いずれにしても、スペースの追加ですから延べ面積は大きくなります。

それとは反対に、和室については、寝室として使用しなくなったこともあって設けることが少なくなりました。タタミコーナーでさえも、ひと頃に比べて見かけなくなってきています。延べ面積は小さくなりますが、日本の伝統的な住まい方を表している部屋が無くなるのは、とても残念なことと思っています。これも時代の流れ、止むを得ないことなのでしょうか。

その他には、スペースを取りやめるという単なる引き算方式で延べ面積を小さくするだけでなく、様々な工夫も凝らすようになってきました。例えば、一つのスペースをスタディコーナーや室内干しスペースとして多目的に活用して床面積を抑えること。収納は、ハンガーパイプを上下二段にして収納量を倍増しながら、本来必要な床面積を半分に抑えています。即ち、住まうことの機能障害を起こさない範囲において、効率的に延べ面積を縮小していると言えます。

小さくて、総2階建ての住まい

コンパクトで広くという考えが普及した結果、現在の延べ面積は、多少地域差がありますが35坪以下になりつつあります。「私のところでは、30坪切りました!」というお話しさえ聞こえてきます。
その主な原因は、やはり材料を含めた建設費が上がったことや、第一次取得者層の収入が減少したことなどがあります。これからは、限られた予算の中で、更に合理的に計画して延べ面積を縮小しなければなければなりません。

また、シンプルでモダンな総2階建ての住宅が注目されています。
この傾向は、住まう人の趣向とは別に、建設費を抑える有効な手段として計画されているようです。当然ながら、建物は、平面の凹凸をなくしたシンプルな外観デザインにすることよって外壁面積が少なくなります。
また、1階と2階の床面積を同じにする総2階建てが屋根面積や基礎の面積を小さくします。延べ面積が縮小された総2階建ての住宅は、総工事費が抑えられ、年収の少ない第一次取得者層でも家を建てたり買うことができたりします。

挿絵

上記の「帖数表」をご覧ください。
これは、3LDK・35坪台の各スペースを割り付けた床面積表です。

1階に22.0帖のLDK、2階にベッドルームがあり、上下階が同じ床面積となっています。各スペースは、狭いと感じることもなく広すぎることもなくバランスが整っていて、無理のない間取りとなることが予想されます。また、玄関収納庫やパントリー、ウォークインクローゼットなどの収納もあり生活がし易そうです。

住まいのコミュニティとプライバシー

さて次は、住まい方です。
下記の「ブロックゾーニング図」をご覧ください。

挿絵

この図は、各部屋が記号化されているので分かりにくいかも知れませんが、部屋やスペースをグルーピングし、代表の記号を用いてブロックの用途を記号で表現していると考えて頂ければ良いかと思います。
私たちは、いつもこのブロックでゾーニングを現した図(ブロックゾーニング図)を描いて、お施主さん毎に生活スタイルを検討しています。

ここで、皆さんにお伝えしたいことがあります。これからの住まいに求められるのは、人との結びつきを大切にしながら、他人から干渉されずに安心して心穏やかに暮らせることです。矛盾を感じるかもしれませんが、住まいにはこれを両立させることが望まれています。解決策は、皆が集まり過ごすスペースと、私生活を干渉されないように過ごすスペースを明確に分けることです。

このブロックゾーニング図は、西側に玄関のある「西入り住宅」です。
1階がコミュニティをつくるパブリックゾーン、2階をプライベートゾーンに分離したゾーニングとなっています。2つのゾーンが、上下階で完全分離したことによって、住まう人たちのプライバシーが視線に晒されることもなくなり、安心して過ごすことが可能になります。

2階浴室の生活は、

更に詳しくご案内しますと、1階には玄関(E)とLDKがあり、2階には主寝室(MB)、子ども室(CB)が2つ、収納やスタディコーナーなど多目的に使うフリースペース(F)があります。特徴的なのは、浴室・洗濯場を含む洗面脱衣室(W)が2階のプライベートゾーンに組み込まれていることです。

まだ一般的には、2階に設けることが少ないかと思います。
水漏れを気にしているのでしょうか。それとも、「ながら家事」で料理をしながら洗濯をする方が合理的であると言われているからでしょうか。しかしながら、これからの家づくりにおいて浴室・洗面脱衣室(W)をプライベートスペースと位置付ける考え方が普及してくるのではないかと考えています。

その理由は、浴室・洗面脱衣室が、服を脱いでシャワーを浴びたり、ゆったりとお風呂に浸かったりするところだからです。まさに、プライバシーを確保しなければならないスペースなのです。従って、外からの視線に晒されにくい2階に設けた方が住まいやすいのです。

更に、それを裏付ける根拠が二つあります。一つは、現場で一から造り込む在来浴室が少なくなり、水漏れ事故の少ない工業製品のユニットバスが普及したからです。これによって、浴室は2階に設置しても問題が無くなりました。

二つ目は、今の洗濯機は、家族4人・1日分の洗濯物を一回で洗濯することが可能だからです。そのため今は、絶えず洗濯機のそばに居なければ洗濯がはかどらないということはありません。
全自動の洗濯機は、キッチンから離れた場所の2階に設置しても良くなりました。加えさせて頂くと、浴室の残り湯を洗濯に使ったり、着ていた服や下着をすぐに洗ったりするには、洗濯機が浴室の近くに設けた方がより合理的ではありませんか。

私が想う2階浴室としたときの生活は、いつでも人の目を気にせず気軽にお風呂やシャワーを使える暮しです。また、浴室が寝室と上下階に分かれていて上下階を行き来することよりも、寝室と同じ階に浴室がある方がヨコ移動で済み、生活がとても楽になります。
もちろん、2階には洗濯物を干すバルコニーや、雨に濡れることがない室内干しスペースがあってこそ成立しますので、忘れずに計画してください。

人気の間取りの予測

それでは、最後に間取りをご覧ください。パブリックゾーンとプライベートゾーンを明確に分けた代表的な間取りです。

挿絵

ブロックゾーニングに基づいてつくられた西入りの間取りとなっています。
玄関には、ウォークインタイプの玄関収納庫があります。玄関からもリビングからも出入りできるとても便利な収納です。この収納があることで、玄関には家族の靴がなくなり、いつでもきれいに保ことが可能になります。

ホールからリビングに入ります。
このリビングには、家での事務作業や、子どもたちのお勉強、パパやママの趣味のためのワークスペースが併設されています。このスペースは、タタミ2帖くらいの面積があり、本棚や整理棚がおけて使い勝手が良いです。

その奥に、ダイニングキッチンがあります。
ここは、南の東に位置し、道路から一番離れた場所になります。同じパブリックスペースでも、リビングは玄関に近い道路側に、ダイニングキッチンは、ややプライバシーを考えてその先に連続させるほうが良いと考えています。キッチン周りには、料理中の食材や食べ終わった後の食器が残っていたりしていて、お客様に見せたくないものがあります。従って、このような並び順になります。

キッチンセットは、センターにシンクのある二の字型を採用しています。このように配置するとで、シンクを中心に様々な作業が行えます。周囲にある冷蔵庫やパントリーから食材を取ってきて、シンクで洗ったり刻んだり、料理を盛りつけることまでできます。

また、ダイニング側から向かい合わせで同時に作業ができる利点もあります。皆で料理をしながら、ダイニング側のハイチェアに座って簡単な食事をしながら、キッチンセットを挟んで楽しくお話をする家族の笑顔が浮かびます。

このLDKの広さは、8.0+14.0の22.0帖です。延べ面積35.0坪の中で、玄関収納庫(2.0)やワークスペース(2.0)を設けたうえでの22.0帖は十分な広さが確保されたいっても過言ではありません。その理由は、浴室・洗面脱衣室が、プライベートゾーンの2階にあるからに他なりません。人によっては、2階に設けたことでの最大の効果と思われる方もいらっしゃいます。

階段は、家族のいるLDKを通った一番奥にあります。
いわゆる、「リビング階段」です。
これによって、家族は必ず顔を合わせることとなり、コミュニケーションが図りやすくなります。家族の目に触れることのなく直接2階へ上がる「玄関ホール階段」よりも、「リビング階段」とするこの傾向は、社会・経済の不安、地震・台風被害という災害に対する不安や、健康不安がある以上しばらくは続くかと思います。

次は、2階です。各スペースの配置は、南北に分かれています。
南側に3つの寝室、北側に日々の生活を支える浴室などの水回りと階段、フリースペースがあります。こうすることで、寝室は、いつでも明るく風通しが良い過ごしやすい部屋となります。その他の生活を支えるスペースは、階段を中心に一直線に並び効率の良い動線が出来上がっています。

浴室に付随する脱衣室をランドリー(洗濯)と兼用し、洗面は廊下の一部に設けてあります。脱衣室に洗面化粧台があると、家族といえども浴室を使っていると脱衣室に入りにくいものです。このプランは、そのストレスを解消してくれます。

ランドリールームには、室内干し用のハンガーパイプを用意しています。
洗濯機から洗濯物を出して直ぐにハンガーに掛けて干すことができ、とても使い勝手が良い計画です。洗濯物が多いときは、階段の先にあるフリースペースを使うこともできます。2階浴室・ランドリーというレイアウトは、家族以外に、干してある洗濯物を見られることがありません。その点は、訴求ポイントになりませんか。

これからの間取りづくり

本編の前述に、暮らし方を表す間取りは、様々な要因で多様な価値が生まれ、変化していきますとお伝えしました。即ち、そこに住まう人(家族)の価値観を考えてプランニングするべきという意味です。従って、これからは、世帯構成の中で多い「共働き夫婦」が主役になった家づくりがとても重要になってくると思われます。

彼らは、仕事も子育ても両立させながら、日々忙しく過ごしています。そのような家族の住まいには、効率的に家事をこなし、家族と過ごす時間を得るという「ゆとり」が生まれなければなりないません。

また、建設費も可能な限り抑えなければならないと思います。つまり、彼らの価値観には「家を建てて住まうことが第一」という観念が少ないです。家を建てることで発生した多大なローンの返済に人生の過半を占めたくはないのです。

従って、彼らの住まいには、下記の三つの提案を織り込んでください。
① 中身が充実したコンパクトな間取りの提案(時には、30坪以下に)
② コストダウンを考えた総2階建ての提案(坪単価を下げる)
③ 住まいというコミュニティと個人のプライバシーを考えた間取りの提案(両立案)

皆さん、今までこのシリーズでいろいろと書かせていただきましたが、この三つが「人気間取りづくりの秘訣」です。これを元に、今後の家づくりの中で施主さんとじっくりと打ち合わせを行い、適切な解答をもってプレゼンしてください。

松浦 喜則
一級建築士 / 遊建築設計社 代表松浦 喜則

平成4年、遊建築設計社を設立。「住まいの文化座」を主宰し住宅会社の設計や、 営業マンに提案ノウハウを伝授。合理的で、簡単なプラン提案の手法は好評。年間500棟のプランニング実績から生まれた、接客用ツールを開発。

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全国の住宅会社・工務店とともに設立した「デザイン住宅に特化した会」です。時代に合った生活提案力のある商品企画、社員力向上のためのデザイン研修、定期会合や文化交流会(建物見学会)などによる情報交換を行っています。

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