人気の動線計画とは?『ただいま・おかえり動線』編
皆さん、こんにちは!
遊建築設計社の松浦です。
本日は、家族のコミュニケーションを図る「ただいま・おかえり動線」についてお話しさせていただきます。
挨拶は、生活を共にする家族といえども大切な行為です。
人は、顔を合わせた時に軽く挨拶や礼を交わします。
その所作を「会釈」と言います。
ここは、自分たちの家だからと言って、遠慮会釈もなく家に入り込んではなりません。家に戻ったら、「帰ってきたよ!」と挨拶をする。家にいる人は、その声や姿を確認して「ここにいるよ!」と会釈を返す。
本当に何気ないことですが、この所作の積み重ねによって、家族は、とても良い関係を結ぶことになります。
私たちは、出会いの一場面がつくれるように、間取りの工夫をしなければならないと考えています。それも、必然的に家族が顔を合わせられるようにです。
今日は、そこのところを詳しくお話しさせていただきます。
今と昔、2階建て間取りの構成は?
地域差はありますが、30~40年前の住まいは、1階に主寝室がある家が多かったと記憶しています。それは、今よりも住まう土地が広くゆったりと生活していたから、あるいは地震や火事の時にすぐに避難することができるからなどと理由は様々かと思います。
従って、2階には「子ども室」が2~3室があるだけでした。
更に、それぞれの部屋は独立していて、玄関ホールや廊下から各部屋に出入りしていました。いわゆる、通路を中心に集まった「個室群住宅」のスタイルでした。
近年は、予算からか建てる土地が狭くなり、家と家との距離もとれない高密度の住宅地が多くなっております。住まいにおいては、建設コストを抑えるための効率化を考えて、1階と2階が同じ床面積になるような総2階建てが増えています。
ご存知のように、総2階建ての建物は、屋根や基礎の平面としての面積、外壁の面積が小さくなり建設費用が安くなります。従って、間取りの構成は、上下階の床面積バランスを考慮して、LDKなどのパブリックスペースを1階に、寝室などのプライベートスペースは2階とすることが多くなりました。
また、2階に寝室を設けたことによって、周囲の環境に対応した住まいをつくることもできました。道路から建物までの距離が短くなりがちな計画地においては、通過する車の騒音や、通行人からの視線から守ることが重要な課題です。地上から離れた2階寝室においては、その音に悩まされることも、視線に晒されることもなく、ゆっくりと眠れる環境が整えられます。今は、この上下階の部屋割りがコストの低減も含めて重要視されています。
更に、間取りづくりにおいては、「無駄をなくしたい、でも収納などのスペースや新たなスペースを追加したい!」という住まい手の指向が強くなり、できる限り廊下をなくすという工夫が尊重されています。その結果、部屋と部屋、スペースとスペースは連続して計画され、時には開け放されて広く使うことが可能な間取りが増えました。建具では、片開きの「ドア」に代わって、一時的に視線を遮ったり解放できたりすることができる「引き戸」が見直されています。
この様に、今と昔では、1階と2階の部屋の振り分けや、平面的な型式という間取りの構成が変わってきています。
2階建ての住まいは、階段の位置がポイント
では、そのように変化した間取りの構成の中で、お家に帰ってきたときに家族が必ず顔を合わせることとなる間取り計画のポイントは何でしょうか?
それは、「階段の位置」にあります。
家族が常に居るリビングダイニングや、キッチンを通過させて2階の寝室へ行く動線をつくることです。階段を、玄関ホールや廊下から直接2階へ上がる「玄関ホール階段」ではなく、必ず一度リビングを通過させる「リビング階段」とすることが良いと考えています。
もちろん、計画条件によっては、リビングに階段があるだけではなく、ダイニングか、キッチンの奥に階段がある場合もあります。
ただいま・おかえり動線「間取りの例」
階段へ至るルートは様々な方法があります。「ただいま・おかえり動線」を考えてプランニングしたルートの代表例を4つ(A・B・C・D)ご紹介いたします。
■ルートA:玄関・ホールから
ルートAの提案は、玄関ホールからリビング➜階段です。
ホールからドアを開けて、住まいの中で一番広くて明るいリビングに入る。時には、吹抜があってその先に、あるいは吹抜と共に軽やかで印象的な階段を設ける場合もあります。リビングに入った家族もお客様も、とても開放的な気分になります。
その空間で挨拶を交わす、とても気持ちが良いですものです。演出効果が発揮されて、戸建て住宅にしてよかったと思われるのではないでしょうか。
■ルートB:玄関収納庫・ファミリークローゼットから
ルートBの提案は、玄関収納庫・ファミリークローゼットからリビング➜階段です。
この間取りは、玄関ホールからもファミリークローゼットからもリビングへ入れる2つのルートを持っています。お客様はホールからリビングへ、家族は靴を脱ぎ、服を着替えてからリビングへ向かうのでしょうか。
階段は、玄関から離れた場所にあり、必ずLDKにいる家族と顔を合わせることになります。
もし、お客様がいらっしゃったら、「こんにちは!」とご挨拶もできます。教育には良さそうですね。帰宅時に、家族とのコミュニケーションが図りやすい間取りと言えます。
■ルートC:玄関収納庫・洗面コーナーから
ルートCの提案は、玄関から玄関収納庫・洗面コーナー➜リビング階段です。
この間取りは、玄関から入ってホールへ出られる2WAYタイプの玄関収納庫で上下足を履き替える。その後、洗面コーナーで「手洗い」と「うがい」をしてリビングにある階段へ向かいます。階段を上るときに「ただいま!」と声をかけ、料理をしているママや、リビングでくつろいでいるパパから「おかえり!」と声を返す様な光景が目に浮かびます。
この間取りの特徴は、階段を住まいの中心に据えていることです。階段からリビングへ、洗面へ、そして浴室へと動線がつながっています。階段が、単に上下階を結ぶだけではなく、住まいでの家族生活に重要な役割りを担っているといっても過言ではありません。
■ルートD:ホール・玄関収納庫・F.CLから
ルートDは、3つのルートを持つ間取りの提案です。
1つは、玄関ホールからリビングダイニング➜階段。
2つ目は、玄関から玄関収納庫・ホールからリビングダイニング➜階段。
3つ目は、玄関から玄関収納庫・洗面コーナー・ファミリークローゼットからダイニングキッチン➜階段です。
目的別に、お客様はホールから直接リビングへ招き入れる。家族は、靴をきちんとしまってからリビングへ、あるいは手洗いをして室内着に着替えてからダイニングキッチンへ。どのルートをたどるかは、その時々の状況や気分によりますね。
さしずめ子どもたちは、「お腹が空いたぁ!」とキッチンへ走って向かうのかも知れません?
このように、階段を玄関から一番離れた場所に設けると、何故かいろいろなシーンが想像されてなりません。
最近は、この階段位置を好まれる方が多いかと思います。ヒアリング時、プランニング時にお施主さんにお話しすると、前のめりになってお聞きいただけます。
一つ屋根の下に住まうとは、寝て起きて、食べて、団欒することです。
しかしながら、家族が共に生活を営むということは、ただそれだけではなく、その生活の中に「家族の絆」を育むことが無ければならないと考えています。
もちろん、食事も団欒も家族のコミュニケーションを図ることができます。
ただし、その行為は、家族が集まってお話をして、相手の考え方や価値観などを広く確認するためと捉えています。
家族の精神的な状況、例えば「今の気分」を感じたりするのは、なんといっても、顔を合わせた時です。人は、その瞬間に全てを察知するものです。
学校から帰ってきた子どもがモジモジしていたら、ニコニコしていたら、何かあったと感ずるものです。「さあ、テストの点数を教えて!」なんて言って手を出してみたり、ハグしてみたりしたくなりませんか。それが、生活の中ではとても大切なことと考えています。
住まいの中で出会いの一場面「ただいま・おかえり動線」を考えてみせんか。
そして、その動線をお施主さんに提案してみませんか!
次回は、「おはよう・おやすみ動線」について詳しくご案内いたします。
毎日、たった一回の挨拶ですが、共に生活する上ではとても大切な行為です。
この動線計画について詳しくお話ししますのでご期待ください!
- 一級建築士 / 遊建築設計社 代表松浦 喜則
平成4年、遊建築設計社を設立。「住まいの文化座」を主宰し住宅会社の設計や、 営業マンに提案ノウハウを伝授。合理的で、簡単なプラン提案の手法は好評。年間500棟のプランニング実績から生まれた、接客用ツールを開発。