2021年3月22日

人気の動線計画とは?『おはよう・おやすみ動線』編

皆さん、こんにちは!遊建築設計社の松浦です。
本日は、家族の間で交わす挨拶を大切に考えた「おはよう・おやすみ動線」についてお話しさせていただきます。

互いを知り尽くし、一番落ち着いていられる場所が家族と共に生活する住まいです。
そのような素のままで過ごせる共同生活の場を、時には親しみを込めて「我が家」と言うこともあります。

その我が家で一日の始まりと終わりに交わす言葉が、「おはよう・おやすみ」という挨拶です。実は、間取りづくりの中で、その場面をつくることがとても大切なことの一つと受け止めてプランニングしています。

今日は、そんな挨拶を交わせる生活動線について詳しくお話しいたします。

朝昼晩、様々な「あいさつ」について

本日は、せっかくの機会なので、暮らしの中での「挨拶」に関することを少し書き記したいと思います。

現代のあいさつ言葉は、それ自体では意味不明の言葉といえます。何故なら、全てにおいて後半部分が省略されていたり、相手の状況確認をする意味で使われていたりするからです。

朝の挨拶は、「おはようございます!」です。
語源は、「お早くから、ご苦労様でございます」の「お早く」が転じて「おはよう」になったようです。

昼に出会った時の挨拶は、「こんにちは!」です。
これは、「今日は、ご機嫌如何ですか」の略とのこと。お昼に初めて出会った人の体調や心境を気遣う言葉として用いているようです。

夜は、「今晩は良い晩ですね」を訳して、「こんばんは!」となりました。
そして、寝るときの挨拶は、「おやすみなさい!」です。敬語表現ならば、「お先に休ませていただきます」であり、「お疲れさまでした、お休みくださいませ」となるようです。

この様に暮らしの中では、朝昼晩と様々な挨拶があります。

注目したいのは、単純に最初に会ったときに「おはよう」と交わす挨拶には、朝目覚めたときに「起きられましたね」という意味が含まれていることです。また、「おやすみ」にも、「ゆっくりと休んでください」という相手を気遣う気持ちも含まれています。
このように、お互いを気遣いあうことは、家庭生活の中においてとても良いことです。

住まいのどのような場所で、どの場面で顔を合わせて声を発するのか。
それは、家庭生活の中で習慣化され、必ず挨拶が交わされることとなるのでしょうか。家づくりを考える上で、とても気になることです。

総2階建て住まいの「部屋割り」

それでは、順を追って間取りを考えていきましょう。
まず初めに、間取りの「部屋割り」という体系的なゾーニングからです。

近年は、宅地の狭小化や建設予算の減少などが原因で、1階と2階の床面積がほぼ同じとなる総2階建ての新築住宅が多くなってきています。

一般的な総2階建ての部屋割りは、1階がLDKなどのパブリックスペース。2階は、寝室などのプライベートスペースに「ゾーン分け」されます。この分け方を採用するのは、上下階が同じ床面積の配分になりやすいことに加えて、パブリックスペースから寝室を分離することで容易にプライバシーを確保することができるからです。

次に、浴室を含む水廻りをどちらに含むかが重要となります。
このスペースを1階に設けるか、あるいは2階に設けるかで、家族が必ず顔を合わせることになるかどうかが決まります。欧米のように、寝室に付随して浴室(シャワールーム)を設けることもあります。
しかしながら、日本の住まいでは、依然として慣習的なルールのように水廻りは「1階」とすることが多いようです。

もちろん、それには理由があります。
プランニングする人や住まう人は、効率的な暮らし方や建物のメンテナンスを考えて、洗濯機のある脱衣室や浴室の位置を決めています。料理をしながら洗濯を済ませるためには、キッチン近くの1階に水廻りを設ける方が良い。あるいは、2階に水廻りを設けると水漏れが気になるなどの理由から、浴室は1階と決められているようです。

では、その慣習にしたがってゾーン分けされた間取りの中で、住まう家族それぞれの朝と晩の行動を想像してみてください。朝は、起きてシャワーを浴び、顔を洗ってから出かける。夜は、お風呂に浸かって疲れをとり、歯を磨いてから寝る。いかがですか、この様な生活行動を考えると、水廻りがLDKと同一階の1階となれば、家族は必ず顔を合わすことになりませんか。

もし、2階のプライベートゾーンに水廻りがあるとしたらいかがでしょうか。
LDKで家族と過ごす以外は、全てが2階で完結してしまいます。それゆえに、家族と一日の最初と最後に交わす言葉の「おはよう・おやすみ」という挨拶が顔を合わせてでき難くなってしまいます。寝る前には、わざわざ1階のLDKに下りて行って「お疲れ様!」と言わなければならないのです。もちろん、絶えず挨拶は交わした方が良いのですが、間取り計画の中でその場面をつくっておくべきかと思います。

従って、水廻りを1階に設けることで、何気ないいつもの行動の中で家族のコミュニケーションがとりやすくなります。

2階建ての住まいは、階段の位置がポイント

そして次に、水廻りをLDKと同一階の1階とした場合に、挨拶を交わす場面づくりで間取り計画の要(かなめ)となるスペースは何でしょうか?

それは、「階段の位置」です。

それも、常に家族がいるパブリックスペースのLDKと2階の寝室を直接的に結ぶ階段です。即ち、リビング通過型の階段(リビング階段)が、必ず家族間の挨拶を交わすこととなる役割りを担います。このリビング階段を設けたことで、お風呂に入るにも、顔を洗い歯磨きするにも、住まいのどこへ行くにも、否が応でも家族の前を通ることとなります。

それは、まさに「おはよう・おやすみ階段」といっても過言ではありません。

開口一番、「おはよう、ご飯ができたわよ!」

例えば、みんなが集まる忙しい朝。

朝ご飯の用意が整ったら、キッチンの先にある階段に向かって大きな声をかける。
「みんな、ご飯ができたわよー!」

目玉焼きが丁度よく焼けたなら、今食べてとばかりに、
「いつまで寝ているの!」と急かせる。

眠そうに、パジャマ姿で階段を下りてくる子供たちが・・・「お、おはよう!」
遅刻しそうだと言わんばかりに、ドカドカとパパが下りてくる、「おはようー!」

家の中での習慣化、「もう寝ますね、おやすみ!」

また、我が家では、寝る前のひと時をリビングでテレビを見たり、お話ししたりすることが習慣になっています。何故か、一日の最後にみんなが集まってくるのです。

無口な息子もリビングの定位置に座っています。娘は、コックリコックリと眠そうです。
そんな、一日に一度、家族全員でゆったりと過ごす夜。

台所廻りを片付け終わり、お風呂もいただいて、
「さあ、ママと一緒に休もう!」と声をかける。
お酒を片手に、パパが振り向くが、まだ寝る気配がない。

「パパもお疲れなのだから、早めにお休みください!」
娘を抱っこして、
「お先に寝ますね、おやすみなさい!」

こうして、我が家の一日が終わります。
ホッとする幸せな生活のワンシーンです。

おはよう・おやすみ動線「間取りの例」

ここで、その様な暮らし方を可能にしてくれる間取りの例を見てください。

挿絵

この間取りは、「階段」がキッチンの奥にあります。
朝起きて、ご飯を食べたり、シャワーを浴びたりするにしても必ずLDKを通過します。
また、夜は夜で、お風呂に入ったり、歯を磨いたりするにしても同様に家族の前を通ります。

まさに、「おはよう・おやすみ」と顔を合わせる動線が出来上がっています。
仲良し家族の暮らしぶりが想像できます。

主寝室と子ども室の並び方(一番奥にあるのが主寝室)

最後に一つ、主寝室と子ども室の位置関係を考えてみてください。

挿絵

この間取りの例のように、階段から順番に子ども室、主寝室と並んでいます。朝晩の生活を考えた時には、主寝室が一番奥に設けると良いです。

階段の近くに子ども室があると、「おはよう、早く起きて!」などの声が届きやすくなります。また、一日の終わりに、廊下の照明を消して子どもたちに「おやすみ!」と声をかけて寝ることができます。もしかしたら、部屋の照明を消し忘れて寝ているのかも知れません。今日の最後に、照明を消して、そっと「おやすみなさい」とつぶやくのが心地よい眠りに入る前のお勤めでしょうか。

家族間での良い習慣を持つことは、心地よい一日を過ごせることに繋がります。ストレスの多い時代においては、なおさら重要となります。

素のままで過ごせる我が家だからこそ、見過ごさずに相手を思いやり、気遣う何気ない挨拶の役割りは大きいのです。私たちは、家づくりの中で、家族が集まり言葉を交わす場面づくりを大切にしていかなければならないと考えています。

皆さんも、今一度、挨拶というコミュニケーションを考えた家づくりをしてみませんか。やはり、なんといっても住まう人の笑顔に勝るものはありません。

次回は、「これから人気となる住まい」について予想してみたいと思います。
一人の設計屋が考える、可能な限り現実的で、近々の間取りです。
どんな切り口なのか?お楽しみにお待ちください!

松浦 喜則
一級建築士 / 遊建築設計社 代表松浦 喜則

平成4年、遊建築設計社を設立。「住まいの文化座」を主宰し住宅会社の設計や、 営業マンに提案ノウハウを伝授。合理的で、簡単なプラン提案の手法は好評。年間500棟のプランニング実績から生まれた、接客用ツールを開発。

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