2022年10月21日

【建築士が向き合う、住まいのカタチ】シンメトリーを取り入れた外観デザイン

木造住宅の外観デザインを考える!

私たち設計屋は、建築を考えるときに様々な形を模索する。

そこに作者の意図を詰め込むように、あらゆる角度から姿かたちの加減を繰り返す。人の目線の高さで、あるいは普段は見ることのない真上から俯瞰(ふかん)して形を整えていく。

遠くから眺めた建物のフォルムは、他に恥(ひ)ずることなく佇んでいるだろうか。近づくと、圧倒的な迫力を醸し出しているだろうか。あるいは、優しく人を向かい入れる術(すべ)を身に付けているだろうか。創作の悩みは、常に尽きることがない。

それは、設計屋だけに許された自己表現なのだから・・・。

このシリーズでは、弊社で制作した外観付き間取り集である「ハウスデザイン集」を元に、木造でつくる住宅の外観デザインを一つひとつ紐解いていきます。

なぜ、その「カタチ」になったのか。
なぜ、そうしなければならないと思ったのか。
その設計意図をお聞きください。

バランスと調和のシンメトリー建築

住宅ではあるが、象徴的で存在感のある建物を創りたい。
設計屋であれば、一度はそんなフォルムに挑戦してみたくなるものだ。

例えば、鉄筋コンクリートの構造躯体をそのまま(コンクリート打ち放し)に仕上げて、禁欲的というストイックな表現を追求してみる。
それとは正反対に、華美と思えるくらいの装飾や個性的なペインティングを施して存在感を現す。

あるいは、リインカーネション(reincarnation)という哲学的・宗教的な意味合いを持たせて、使い古された倉庫などを住宅へと生まれ変わらせる。建築の輪廻転生と言ってもよい。これによって、建物は、用途を変えて蘇り(よみがえり)新たな存在感を示すこととなる。

このように、素材や表現の方法は多様にあるが、いかんせん創る建物は「住宅」である。住まいは住まいであり、宗教建築でも記念建築でもない。

即ち、そこには、家族の日々の営みがあり、どんなに造形力を駆使したとしても住まいとしての表情を消え去ることは難しく思われる。

住まいとしての体(てい)を成しながら、街の中に佇むシンボリックな住宅建築というものが存在するのであろうか。そもそも、そのようなカタチを優先させた住宅を支持する人がいるのだろうか。住まいたいと思うのだろうかと疑問が湧いてくる。

それならば、とやかく言わずに一層のこと、住宅でありながら象徴性を強調して存在感を醸し出してみることに挑戦してみた。

それが、「ハウスデザイン集のNo.12」の外観デザインである。

ハウスデザイン集No.12:外観パース
ハウスデザイン集No.12:外観パース

象徴的なフォルムを創るには、カタチに「緊張感」を持たせることである!

緊張感を醸し出すには、寸分の狂いのないシンメトリーに仕上げることがよいと考えた。
もちろん、左右を対象に構築するために、平面計画において様々な制約を受ける。窓を設けなければならないスペースを配置できなかったり、あるいは窓の位置が外観上決められたりする。動線も変更せざるを得ない場合がある。

それが故に、気持ちが高ぶるような張りつめたカタチを意図的に創りやすい。
象徴的なフォルムを創るということは、即ち「外観デザイン優先の家づくり」といえる。

フォルムの中心に、外部との接点となる「玄関ドア」を配する!

まず初めに、ファサードのデザインは、屋外(そと)と屋内(うち)を結ぶ掃き出し窓ではなく、連続性を遮断する固く閉ざした玄関ドアを中心に配置した。

これによって、周辺環境を取り入れながら生活をおくるという外と内の交流(接地性)が無くなる。本来において、住宅にあるべき地域との接点を極力排したことになるが、これも一つの建築的な表現ではないだろうか。

玄関ドアの上に、中心性を失わないように大きな窓を配する!

2階には、ゴシック建築のバラ窓の様に、玄関ドアと同一となる縦の中心線を持つ大きな窓を設けた。
さらに、玄関ドアと窓の廻りを欠き取り、上下の開口部二つを一体化させて中心性をより明確化させた。

これは、ファサードの壁を二重壁として厚みを持たせたことで可能になった。イメージとしては、表面一重分の壁を欠き取ったと解釈して欲しい。

重厚感のある幅広の壁を両サイドに設ける!

次に行ったのが、開口部の両サイドの壁幅の検討である。

建物は、支える壁の大きさによって印象が変わる。
木造建築としては、概ね両サイドに910mm(1.0P)の耐力壁があれば構造的に成り立つ。

しかし、今回の外観デザインは、象徴的な存在感を示すファサードづくりである。建物は、どっしりと安定した印象を与える必要がある。

それを意識して、2倍の壁幅(1,820mm・2.0P)とした。また、シンメトリーによる外観構成が、上下階の耐力壁を揃えることとなり、さらに重厚感を増すことになる。

切妻屋根の妻面をファサードに迎えて、より高く表現する!

屋根は、切妻の屋根を架けて妻面を見せた。
ファサードの幅6.0P(5,460mm)が通常よりも長く、さらに、8.0寸の急勾配屋根を採用したことによって妻壁(軒高から上の三角の壁)が大きく立ち上がり、建物は、より高く、より大きく構えることになる。これは、大きな外壁面による高さの強調である。

また、切妻屋根を採用したのは、左右の屋根勾配が同じであれば、切妻の棟(屋根の一番高い部分)が屋根の中心となるからである。
その中心線(棟を垂直に下したライン)は、玄関ドアや窓の中心線と必然的に同一上になり、シンメトリーな建物であることをより明確化させることになる。

いかがでしたか、これがシンメトリーという手法を用いて、象徴的で存在感のある外観デザインを構築した「ハウスデザイン集のNo.12」です。

その他にもさまざまなつくり方がありますが、それにつきましては、また別の機会にお話しさせて頂きます。

一般的に、住宅を計画するにあたっては、住まいでの生活を意識し、それがにじみ出るようなフォルムを創ることが多いかと思います。

住まいとして、心の思うままにカタチを追い求めた建物は、人間らしさが伺えて周囲の住環境に馴染んで佇みます。いわゆる、周囲の環境に合わせて創られた住まいは、親しみやすい建物となるのです。

しかし、そこには、象徴性を醸し出すような緊張感が存在しません。

象徴的な建物は、カタチに制限を加え、無駄を排し、よりシンプルに創り込む必要があります。それを意識してカタチを構成したならば、必ずシンボリックで存在感のある建物になります。

外観デザインは、住まう方の趣向で決まります。
即ち、「好み」です。この様なカタチの建物がお好きな方もいらっしゃるのではないでしょうか。

是非、「新しい住まいのカタチづくり」としてご参考にしてください。

松浦 喜則
一級建築士 / 遊建築設計社 代表松浦 喜則

平成4年、遊建築設計社を設立。「住まいの文化座」を主宰し住宅会社の設計や、 営業マンに提案ノウハウを伝授。合理的で、簡単なプラン提案の手法は好評。年間500棟のプランニング実績から生まれた、接客用ツールを開発。

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