2022年9月22日

【建築士が向き合う、住まいのカタチ】相似形の組み合わせでつくるデザイン

木造住宅の外観デザインを考える!

私たち設計屋は、建築を考えるときに様々な形を模索する。

そこに作者の意図を詰め込むように、あらゆる角度から姿かたちの加減を繰り返す。人の目線の高さで、あるいは普段は見ることのない真上から俯瞰(ふかん)して形を整えていく。

遠くから眺めた建物のフォルムは、他に恥(ひ)ずることなく佇んでいるだろうか。近づくと、圧倒的な迫力を醸し出しているだろうか。あるいは、優しく人を向かい入れる術(すべ)を身に付けているだろうか。創作の悩みは、常に尽きることがない。

それは、設計屋だけに許された自己表現なのだから・・・。

このシリーズでは、弊社で制作した外観付き間取り集である「ハウスデザイン集」を元に、木造でつくる住宅の外観デザインを一つひとつ紐解いていきます。

なぜ、その「カタチ」になったのか。
なぜ、そうしなければならないと思ったのか。
その設計意図をお聞きください。

相似形の組合せ(ツインズTwins)

背の低い建物(平屋住宅)は、印象に残るカタチを創ることが難しい。
私たち設計屋は、いつも頭を悩ませている。

一般的に建物は、重力に反して立ち上がれば上がるほど迫力を増していく。
言い換えれば、インパクトのある建物をつくるならば、高さを求める方が容易に存在感を表現できるのである。
もちろん、それは、デザイン力があってこそ成せることではあるが。

また一方で、アメーバが仮足を伸ばすように、建物を地勢に沿って限りなく増床させることで存在感を表現するデザイン手法もある。その上で、構造や外壁の仕上げ材をコンクリートや石などを使うことによって、さらに重厚感という迫力を増すことも可能になる。

しかしながら、木造でつくる平屋の住宅においては、その規模においても、あるいは重量のある仕上げ材で建物を覆うことも難しい。設計屋は、水平方向に展開される間取りを考えながら、存在感を増すデザインを整えることに日々苦悩していると言っても過言ではない。

私も、幾つもの平屋住宅を創ってきたが、いまだに難しいと感じている。
今回は、平屋住宅を創作した過程のお話です。

ハウスデザイン集No.14:外観パース
ハウスデザイン集No.14:外観パース

ハウスデザイン集の「No.14の平屋スタイル」では、シンプルでモダンなカタチを追求しながらインパクトのあるデザインを模索してみた。

ご存知のように、カタチは、簡素化すればするほど陰影が少なくなりボリュームを感じなくなる。即ち、印象に残りにくい建物となるものである。

そこで、まず初めに直方体の箱(ボックス)の上部を斜めに切り落として片流れの屋根つくる。今回は、木造建築物に本来あるべき軒先もケラバも排して単純化を試みた。昨今の技術開発によって、外壁面より屋根面を持ち出さなくても、躯体内の通気性や防水性を維持することが可能となった。その上での新たな建築的表現である。

次に、建物の正面(ファサード)は、カタチとしての印象を高めるために、長方形の面(桁側)ではなく、屋根勾配のある台形の面(妻側)を見せることとした。何故なら、妻側を見せる建物は、平屋であっても面としての大きさや高さが強調されるからである。加えて、片流れの屋根が、空を斜めに切り裂くことでカタチとしての抑揚感も与えることになる。
しかし、これだけでは、まだインパクトのある平屋住宅の外観とはならない。

次に講じたのが、ボックスの組み合わせである。各々のボックスに意味(用途や機能など)を持たせ、それらを一体化することで一つの目的を果たす方法を活用した。カタチの異なるモノの組み合わせもあるが、今回は、類似した二つのボックスの片方を左右反転して組み合わせてみた。

新たな造形、相似形の双子(シミラーシェイプ ツインズ)の誕生である。

双子の右側ボックスには、外部とのつながりを持つ掃き出し窓を設け、家族が集うパブリックスペース(LDKなど)という用途を持たせる。もう一方の左側ボックスには、玄関や小窓のある水廻りスペース(洗面脱衣室や浴室)などの用途を持たせた。

この双子の建物は、どちらかが欠けても人が暮らす住宅にはならず、一体化することで初めて意味を成し、住まいとしての役割を果たすことになる。

更に、カタチを追求するために、陰影を与えるという二つの拘り(こだわり)を加えた。一つは、左右のボックスは、前面の外壁面を同一面(つら)とせず、前後に配置した。また、ポーチは、祠(ほこら)の中にあるように外壁を欠き取り、玄関ドアの位置を下げた。こうすることによって、建物には、日差しによる陰影が生まれて量感(マス)を印象付けることとなる。

二つ目は、外壁の仕上げ材である。外壁材に、凹凸のない素材を使うと陰影がなくなりカタチが単調になってしまう。
そこで、あえて重ね合わせて張る「サイディング」を選んだ。それも、木製のラップサイディングではなく、モダンデザインを意識して金属製のサイディングを使用したのである。この仕上げ材が、外壁面に横ラインの陰影をつくり外観をより印象深くする。

ハウスデザイン集に収録された「No.14の平屋スタイル」は、シンプルでモダンなカタチを追求しながらインパクトのあるデザインを構築しました。

デザイン手法としては、複雑な作業を繰り返したものではありません。
単純に、直方体の箱(ボックス)の妻面を建物の正面(ファサード)とし、二つの相似形のボックスを組み合わせたものです。

しかしながら、その手法によって、建物はひとつのボックスで表現する以上の効果が生まれ、高さの強調や抑揚感をより増すことになります。
平屋住宅における「新しい住まいのカタチづくり」としてご参考ください。

松浦 喜則
一級建築士 / 遊建築設計社 代表松浦 喜則

平成4年、遊建築設計社を設立。「住まいの文化座」を主宰し住宅会社の設計や、 営業マンに提案ノウハウを伝授。合理的で、簡単なプラン提案の手法は好評。年間500棟のプランニング実績から生まれた、接客用ツールを開発。

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