【建築士が向き合う、住まいのカタチ】浮遊する白いボックスの建物
木造住宅の外観デザインを考える!
私たち設計屋は、建築を考えるときに様々な形を模索する。
そこに作者の意図を詰め込むように、あらゆる角度から姿かたちの加減を繰り返す。人の目線の高さで、あるいは普段は見ることのない真上から俯瞰(ふかん)して形を整えていく。
遠くから眺めた建物のフォルムは、他に恥(ひ)ずることなく佇んでいるだろうか。近づくと、圧倒的な迫力を醸し出しているだろうか。あるいは、優しく人を向かい入れる術(すべ)を身に付けているだろうか。創作の悩みは、常に尽きることがない。
それは、設計屋だけに許された自己表現なのだから・・・。
このシリーズでは、弊社で制作した外観付き間取り集である「ハウスデザイン集」を元に、木造でつくる住宅の外観デザインを一つひとつ紐解いていきます。
なぜ、その「カタチ」になったのか。
なぜ、そうしなければならないと思ったのか。
その設計意図をお聞きください。
浮遊する白いボックス(直方体の箱)
ハウスデザイン集の「No.13のシンプルモダン」と題した外観デザインは、スカイラインを水平に切ったフラットルーフのような屋根を持ったボックス型の形をしている。
従前の木造住宅にありがちな、屋根勾配を設けて降った雨水を上から下へと流すフォルムをしていない。この形を可能にしたのは、防水技術の進化によるものである。従って、この形は、現代的とか当世風というモダンデザインに位置づけられる。
外観に特徴を与えているのは、空中に浮遊するように設けられた「白いボックス(直方体の箱)」である。
まるで、頑固な彫刻家が造形力を誇示するがごとく、建物躯体の基礎となる硬くて黒い石のような躯体を削り取り、そこにしっかりと直方体をはめ込んでみた。白い色は、住まう人の純粋な気持ちと、この地に染まり、地域に溶け込む覚悟があることを表わしている。
白いボックス(直方体の箱)には、下階よりもオーバーハング(持ち出し)することによって、内包された意識を外へと自己堅持するような表現を与えてみた。この造形によって、建物は、我々の住まいであるがごとく存在感と力強い意志を示すこととなる。浮遊感を与えたのは、自信を際立たせるための形なのである。
左手1階にある長壁(ちょうへき)には、存在意義が2つある。
1つ目は、オーバーハングした建物は、外観に不安定感を与えてしまうことが多い。
それを補うのが、1階から支える長壁である。片側だけではあるが、視覚的に上階の重量に耐えられるようにしっかりと上階を支持させた。
この長壁は、厚ければ厚いほど、仕上げ材の重量が重く見えれば見えるほど、更には浮遊した白いボックス(直方体の箱)よりも手前に長く伸びるほど、上階の重さに耐えられる感覚を覚え安定感が増していくことになる。
間違っても、一般的な木造の柱寸法による壁の厚みや、白い外壁面と同一面やその手前(面内)で止めてはならないと考えた。
2つ目は、人々を建物へ誘う役割である。
長壁(長い塀)は、生き物の触手のように人を受け止めて玄関先へと誘導していく。まるで、動線の方向性を指し示すように立ちはだかる。その先にあるのは、優しく人を迎え入れる有機的な木の外壁とドアである。訪問者は、安心してドアをノックすることだろう。
ハウスデザイン集に収録された「No.13(シンプルモダン)」は、ほのぼのとした家族の団欒や家庭生活を表現した優しく静かに建つ住まいではありません。
どちらかと言えば、強固な躯体に囲まれた住まいが、いつまでも家族の幸せを守り続けることを保証するがごとく佇んでいると言った方が正しいかと思います。
まさに、この造形は、威風堂々と建ち、安心して住まうことが可能な雰囲気を醸し出しています。
これもまた、新しい住まいのカタチではないでしょうか。
- 一級建築士 / 遊建築設計社 代表松浦 喜則
平成4年、遊建築設計社を設立。「住まいの文化座」を主宰し住宅会社の設計や、 営業マンに提案ノウハウを伝授。合理的で、簡単なプラン提案の手法は好評。年間500棟のプランニング実績から生まれた、接客用ツールを開発。