イマドキ和室の在り方「家づくりに潜むクレームとトラブル」
皆さん、こんにちは!遊建築設計社の松浦です。
今日は、家づくりを進める中で起こる「クレームとトラブル」についてお話しさせていただきます。
私たち遊建築設計社では、お施主さんとの間で問題にならないように、様々な事例を挙げて対処方法や根拠をまとめた「YU-GRAM」という家づくりのルールを定めています。そのルールを基に、ヒアリングをさせて頂き、プランニングに活かし、そしてプレゼンテーションを行っています。
これからお話しする内容は、ルールブックに記載されていることであり、私たち設計事務所が常に実践していることです。
家づくりをする方に必ず役に立つことですので、最後までお読みください。
第8回 イマドキ和室の在り方!
近年は、「和室」の設え(しつらえ)について、「難しくて分からない!」とか、「使う機会がないので詳しくは知らない!」いう方が多いのではないでしょうか。
平易に「和室」を説明するならば、日本家屋特有の畳みを敷き詰め、床の間や押入が供えられたり、障子(しょうじ)や襖(ふすま)で仕切られたりした部屋であり、客間や寝室として使われているでしょうか。
しかしながら、その設えについては、若い人たちの生活習慣に当てはめると、理解しにくく受け入れられない部分があるように思われます。
和室は、日本の歴史の中で時代に合わせた住まい方として育まれてきました。ひも解けば、寝殿造り、書院造り、そして数寄屋造りへと移り変わってきたのです。その結果、様々な「しきたり」が生まれ、それを受け入れる部屋として準備される「和の様式」に発展しました。
例えば、行儀作法という日常生活における「立ち居ふるまい」の作法や、人々との関わりの中で「おもてなし」という心を表現する仕様仕上げです。これが即ち「設え」といえます。
従って、和室は、「しきたり」に合わせた広さや出入りの方法、時には視線の方向まで決められているのです。これでは、今の若い人たちに容易に想像することができないのが当たり前なのかもしれません。
本日は、つくり手側が安易に和室?を設けたことで起こる顧客との間での「クレームやトラブル」についてお話いたします。
居間と客間、将来の寝室にも?
先ずは、よくあるお話です。
住宅の中に求められる様々な生活スタイルを、和室が持つ多様で多機能な使い方に頼った結果がとんでもないクレームになりました。
お施主さんから、和室についてこんな条件が出されました。
☆リビングの延長としての和室が欲しい!(床に座る、節句飾りを楽しみたい)
☆お客様をお通しする和室が欲しい!(おもてなしを和室で、両親の宿泊室)
☆歳を取ったら、1階で生活をしたいので和室を寝室として使いたい!
「了解しました、お任せください!」と胸をたたいて、お応えしたいとお返事をいたしました。和室の特徴は、様々な使い方に対応できることです。今回もご要望にお応えできると自信満々でした。
さあ、プレゼンの日です。お施主さんは、期待で胸が高まっています。
ところが、大失敗です!
提案の間取りは、リビングの隣に4.5帖の和室を設け、室内には節句飾りができる床の間とお布団をしまう押入をつくりました(図1)。
(図1)
完璧かと思ったのですが、お施主さんからのご指摘は、
● リビングからしか出入りできないと・・・・・
お客様に子どもたちのオモチャで散らかったリビングを見せてしまうことになる!
● 4.5帖の部屋(図2)では・・・・・
両親二人分のお布団が敷けない、狭い!
● 将来の寝室として使うには・・・・・
トイレやお風呂が遠い!
もっともなお話、配慮が足りませんでした!
(図2)
リビングからだけではなく玄関ホールからも出入りできるように計画していれば、そして、少なくても近くにトイレだけでも近くに設けていれば。それは、もう後の祭りです。
皆さん、ただ単に和室を設けるだけではなく、おもてなしのためにお客様の出入口と家族の出入り口のあり方に気を使うことがとても重要です。よくよく考えてプランニングしてください。
うちの子、ホコリの中でお昼寝している!
引き渡し後の建物定期点検の時に、奥様からの一言がありました。
間取りを検討しているときに、「お子さんのお昼寝を、キッチンから見守る和室を設けてはいかがですか?」と設計担当者の方に提案されました。
なるほど、押入からタオルケットを出して掛けてあげたら、それは、いいアイデア!
そう思ってお家を建てていただいたのですが、
住んでみたら・・・
上の子たちが遊びまわった後、その時のホコリが寝ている赤ちゃんの上に落ちてくるのです!
こんなことならば・・・・・
ベビーベッドの中に寝かせるだけで良かった?ベビーベッドの中ならば、お布団がタタミの床からは離れているし、それに、何よりもリビングダイニングが広い方が良かったかも・・・・・?
とても残念です!
この問題は、意外とよく指摘されることです。
奥様のご意見以外の解決策としては、子どもたちが遊びまわるスペースに和室を組み込まないことが一番です。
例えば、日頃は、襖などの建具を閉めて和室をLDKと分離した生活ができるようにし、子どもがお昼寝をするときだけ見えるように開けておく。それが無理ならば、リビングと和室の床に明確な段差(20cmくらい)を設けて、子どもたちが自由に出入りしにくくすることも一つの方法かと思われます。
更に、こんなこともあります。
和室の設え、特に仕様仕上げが伝統的な「和の様式」と異なることで起きたことです。ご年配の方からのご指摘といっても良いかも知れません。
いわゆる、床仕上げが畳敷きの洋室・・・・・?
引き渡し検査の時でした。
感情をあらわにした声で、「なにこれ、これが和室!・・・畳みが敷いてあるだけ?」
若い担当者の頭の中は、クエッションマークがいっぱい(???)。弊社の和室の仕様通りにつくったのですが、担当者には何がなんだかわかりません?
お施主さんは、
「柱も、長押(なげし)もない!・・・天井の仕上げがビニールクロス?」
和室は、お客様をおもてなしする場所。だから、床の間を設け、長押(柱と柱へ水平に打ち付けた材)を取り付けた格式のある部屋に設えるべき。
「そもそも建具が襖ではない、洋室のドアが付いている!・・・窓に障子もない?」
和室へは、ドアを開けて一気に入るのではなくて、膝をついて声をお掛けし、そっと引き戸を少し開き、お客様にご確認していただいてから人が入るほどに引き戸を引く。
窓からの眩しい直射日光が入ることを避け、光が拡散する障子紙を用いる。心穏やかに過ごすのが和室、とおっしゃられました。
何かが、違う?
担当者は、長押なら、私の住んでいるアパートにもハンガーを掛ける便利な木の板があります。その機能があるのが長押?それとは違うことなのでしょうか。
ボタンの掛け違い、食い違いです。お互いのイメージしている和室が異なったために起きたことですね。引き渡し時点で、このようなトラブルはあまりないのかも知れませんが、ご年配のご夫妻との仕様打合せで説明に困ってしまったというお話を度々伺うことがあります。
やはり、その打ち合わせでは、写真などをお見せして仕上げなどを擦り合わせることが望ましいです。
本格的な和室と今風(イマドキ)の和室、客間としてあるいは家族の団欒の場として、その使い方で比較しながら方針を決めても良いかと思います。
と、トイレがこんなところにある?・・・・・もう、ダメダメだぁ‼
間取りの打ち合わせで、お施主さんに指摘されたとのことです。
ご希望通りの間取りを自信満々にご説明していました。その時、突然ご主人が難しい顔になられ、
「なにこれ、床の間の後ろ隣にトイレがある!(図3)」 更に続けて、
「2階のトイレが床の間の上にある?」・・・・・これで良いの?私は、納得できない!
言い訳なのかも知れませんが、予算を考えて、延べ面積を無駄に大きくしないように効率よく考えてプランニングしたのがアダになったのでしょうか?
(図3)
そうですね、建設の予算に合わなければ契約できません。
プランニングされた方の気持ちは、大変よく分かります。
和室にある床の間は、格式を考えて本勝手(向かって左にある床の間)、それも南向きに配置されています。トイレは、外壁に面して窓を設けられています。ここまでは、よく考えられています。
しかし、もう少し和室を使っているときのことを想像してみてください。
お花や掛け軸を飾る床の間は、お客様をおもてなしするための神聖な場所です。その床の間を愛でていたら、急に床の間から排水が流れる音がしましたら如何でしょうか?
たぶん、お施主さんは、それをおっしゃったのではないでしょうか。間取りは、いかなる時でも多方面から検討を重ねて提案するべきですね。
さて、つらつらと述べさせていただきましたが、確かに和室は、日本の文化伝統として継承されてきた仕様仕上げや、ならわしを表現し、そのしきたりに沿うように設えてあります。
ただし、これが標準的で持続的な行動の型として捉えていても、時代は絶えず変化し、住まう人の価値観も変わるものです。
即ち、イマドキ和室というものが常に存在していくものだと認識するべきではないかと思います。
私は、若い人たちには分からない。と思わずに、今の生活に合った「あるべき行儀作法」や「おもてなしの方法」などを、和室やその設えを通じて彼らと大いに語り合い、新しい文化を育てていかなければならないと感じています。
皆さんも、今一度思いを馳せてみませんか、日本の住文化を。
次回は、家の中で危険な場所となる「住まいの階段」についてのお話しです。
私ども住宅専門の設計屋は、間取りを考える上で安全に移動できるように階段の形状や手摺の位置などを注意深く検討いたします。それを、実際に起きた「クレームやトラブル」を交えてお伝えいたしますので、次回もご期待ください!
- 一級建築士 / 遊建築設計社 代表松浦 喜則
平成4年、遊建築設計社を設立。「住まいの文化座」を主宰し住宅会社の設計や、 営業マンに提案ノウハウを伝授。合理的で、簡単なプラン提案の手法は好評。年間500棟のプランニング実績から生まれた、接客用ツールを開発。